内容紹介
茶の湯やいけばなのような身体知をもって継承される文化には、そもそも文字で伝えられる史料は少ない。茶の湯では「心に伝え目に伝え、耳に伝えて一筆もなし」というように文字で伝えるものではないと考えてきた。しかし実際には、茶の湯の中で、茶人たちは命がけでその思いやふるまいを表現してきた歴史がある。文書・記録に残らない茶人たちの記憶、伝承を通してそれを再現する方法があるのではないか。
千利休という茶の湯史上の巨人をいかに描くか。これまでもすぐれた利休論が生まれている。しかし、そこにまだ加えられるものがあると考えて本書の利休論は執筆された。利休の書状や同時代人の日記類ばかりでなく、利休の孫千宗旦がその息子江岑宗左に語った伝承である「江岑宗左茶書」が新たに現れた。それを紹介する仕事にあたった著者が、文書・記録と新しい伝承資料を用いて新たな利休像を描き出したのが本書である。
利休の茶の湯がどのようなものであったのかを読み取っていただければ幸いである。