内容紹介
葛飾北斎と版元の西村屋は「富嶽三十六景」46枚の他に「諸国滝廻り」8枚と「諸国名橋奇覧」11枚の計65枚の景観錦絵を一挙に版行している。
そこには公武体制を支える東海道と厳島、竹生島、江の島の三大弁財天が含まれる。
本書は、全65枚を北斎の国土論、国史論として読み解く。
カギになったのが絵本「富嶽百景」の中に出てくる「ダイヤモンド富士」で、北斎は方位信仰に着目して、鹿島社―富士山―藤原京、銚子―富士山―奈良京、日光―諏訪湖―奈良京、の三つのラインを取り上げ、奈良時代の国土把握の合理性を確認している。
その上で、『日本書紀』に出てくる「諷喩・倒語」、によって神名の語義解を行いながら、『古事記』からは、「千字文」冒頭の「宇宙洪荒」の語義をとりだした。
そのためには狂歌俳諧に裏打ちされた日本文芸史の理解が不可欠であった。
目次(内容と構成)
はじめに 7
一章 天保二年という年 世相へのウガチ 14
一章の一 シーボルト事件と伊能地図 17
一章の二 「東海道名所図会」から「東海道名所一覧」へ 21
一章の三 絵本「百富士」の影響 26
一章の四 西村屋と北斎による大量の錦絵開版と「千絵の海」の追加版行 27
一章の五 絵本「富嶽百景」の意義 富士山の歴史と文芸史 29
二章 地誌絵の大成者北斎 狂歌俳諧の真実 42
二章の一 「富嶽三十六景」四十六枚の構成の特徴 42
二章の二 山水画の系譜にある三枚の絵の主題 44
二章の三 狂画の系譜にある二枚の「略図」の主題 46
二章の四 景観画の系譜 「相州七里ガ浜」の謎 52
三章 九枚の東海道の富士 62
四章 十三枚の東都の富士 80
四章の一 建造物の東都(七枚) 80
四章の二 物流拠点としての東都(六枚) 89
五章 十八枚の諸国の富士 98
五章の一 諸国の富士(十枚) 98
五章の二 参詣路の富士(八枚) 116
〈コラム〉 白描の富士 132
まとめ一覧「富嶽三十六景」全四六枚の主題 134
六章 北斎筆「諸国瀧廻り」「諸国名橋奇覧」を合わせて見る 136
六章の一 「諸国瀧廻り」八枚 138
〈コラム〉日光女峰山と記紀伝承 152
六章の二 「諸国名橋奇覧」十一枚 156
六章の三 「滝と橋シリーズ」は「富嶽三十六景」の補足シリーズ 175
まとめ一覧 「滝と橋シリーズ」は「富嶽三十六景」の補完シリーズ 176
六章の四 「千絵の海」の主題は何か 177
〈コラム〉 外八海と二つの桜池 180
七章 龍の棲む日本 184
七章の一 「大日本国地震の図」考 184
七章の二 中世の弁財天信仰 187
七章の三 徳川の国土認識 193
七章の四 龍神図と「古事記・万葉集」 200
一、伝統的龍神図と『古事記』 200
二、『万葉集』八〇六番からの九首 龍馬、梧桐、二ツ石 201
〈コラム〉 住吉大神と記紀伝承 203
七章の五 出雲・伊勢ラインと奈良京遷都の意義 206
〈コラム〉大和三山と記紀伝承 210
八章 数理表章と古典文芸 ダンテの神曲・和歌技法と西洋修辞法・十王経 216
八章の一 数字根と倒語数、完全数と立体数、反令義 216
一、数字根と倒語数 216
二、完全数と立体数 217
三、反令義 220
八章の二 『古今和歌集』の数的構成と六歌仙・六種歌 223
八章の三 和歌技法と西洋の修辞法 239
八章の四 交差配語法と記紀伝承 海幸彦と山幸彦を例として 250
八章の五 十王経から十三仏へ、その数的構成 252
九章 北斎の「文昌星図」と『古事記』の神名解読 260
九章の一 北斎の「文昌星図」 260
九章の二 和歌技法でよみとく『古事記』の神名〜〜倒語、物名、交差配語 265
一、倒語による神名「イザナギ・イザナミ・スサノオ」の語義抽出 265
二、物名による神名「天之御中主神・建御名方神」の語義抽出 266
三、交差配語による神名「三前大神」の語義抽出と渾天説・蓋天説の位相差 267
〈コラム〉 女媧と伏羲 278
四、服部中庸の「三大考」について 280
五、星神香香背男と倭文神建葉槌命 293
六、大宜都比売神と提喩 294
九章の三 『古事記』・上巻の縦構造 296
九章の四 経度緯度の導入と稗田阿禮 298
〈コラム〉 大津京跡(北緯三五度・東経一三六度) 306
九章の五 「記紀」を受け継ぐということ 308
おわりに 312
図版・図表索引 314
参考文献 316