内容紹介
「悲劇的なるもの」という要素は,原始キリスト教の成立と発展にいかに関わったか。アリストテレスを手がかりに,「悲劇的なるもの」の基本的条件を探り,それらの要素を最古の福音書マルコに適用する。さらにキリスト教最初期の事件そのものにも適用し,エルサレム原始教会の誕生,使徒パウロの事柄把握を「悲劇的」感性の展開した姿として把握する。「悲劇的なるもの」との出会いこそ,後に「キリスト教」として発展する運動の母胎であった。原始キリスト教は,悲劇に遭遇した者たちの心の軌跡として読み直すとき,思いがけない生々しさで甦る。
目次(内容と構成)
序 ――問題設定
第一章 文学作品における「悲劇的なるもの」
一 「悲劇的なるもの」とは ――アリストテレス『詩学』より
一・1 はじめに
一・2 アリストテレス『詩学』
一・3 文芸批判的観点から
二 悲劇的文学作品の定義
第二章 原始キリスト教における悲劇的文学の造形
一 マルコ福音書
一・1 「筋」の三要素 ――「逆転」「認知」「苦難」
一・2 悲劇性ゆえの顕現物語の欠如
一・3 悲劇の二重化
一・4 「性格」について
一・5 受容論的考察 ――悲劇物語との一体化のメッセージ
二 前マルコ受難物語
二・1 まえおき
二・2 テキスト
二・3 特質
第三章 最初期のキリスト教における「悲劇的なるもの」の発現
一 歴史における「悲劇的なるもの」
二 イエスの十字架事件
二・1 イエスの生涯の概略
二・2 悲劇的事件としての十字架事件
二・3 「イースター事件」
二・4 「喪の作業」としての原詩キリスト教の設立
二・5 「喪の作業」の失敗 ――イスカリオテのユダの謎
三 パウロ
三・1 パウロの生涯の略述
三・2 その「回心」
三・3 十字架の悲劇との遭遇
三・4 「十字架の神学」
三・5 し贖罪の神学と十字架の神学
三・6 パウロからマルコへ
第四章 原始キリスト教における「悲劇的なるもの」の衰退と残存
一 パウロ的潮流において
一・1 「パウロの名による書簡」の中の非悲劇化
一・2 コロサイ人への手紙とエフェソ人への手紙
一・3 その他の「パウロの名による書簡」
二 福音書において
二・1 マタイによる福音書
二・2 ルカによる福音書
二・3 ヨハネによる福音書
三 悲劇化されえぬもの
三・1 ヨハネ福音書を例に
三・2 「非悲劇化」の中でも消し得ない点
結論 ――悲劇的なるもののキリスト教的意味
あとがき
参考文献