内容紹介
黒人女性として初めてのノーベル文学賞を受賞したモリスンは,白人支配の下で「見えない存在」として生きたアメリカの黒人の姿を四世紀の歴史の中から掘り起こし,この人々の内なる世界に声と言葉を与えた。精緻な詩的言語と斬新な手法を駆使するポストモダンの作家であるが,民衆の生を豊かに物語る力は,彼女が黒人文化の伝統を相続する語り部であることを示している。「愛とアイデンティティの追求」をテーマとするモリスン文学には民族の伝承文化(音楽・宗教・物語)やアフリカ的宇宙観が息づいている。忌まわしい過去を「国家的記憶喪失」の仮面の下から甦生させ,未来の可能性は歴史の認識にありとし,最上の芸術は美しいと同時に「政治的」であらねばならないと信じるモリスン。彼女の思想を,アフリカ系アメリカ人の歴史と現在,そして文化を背景に解明する。
目次(内容と構成)
はしがき
Ⅰ 先祖の戦いと文化の誕生
一 物語の力
二 ソジョナー=トルース(一七九七-一八八三)
三 ハリエット=タブマン(一八二〇-一九一三)
四 ハリエット=ジェイコブス(一八一三-九七)
五 マーガレット=ガーナー
Ⅱ 唱う女たちの伝統
一 流露する魂
二 ガートルド=レイニー(一八九一-一九六〇)
三 ブルースと黒人文学
四 ゾラ=ニール=ハーストン(一八九一-一九六〇)
Ⅲ トニ=モリスンの世界
一 生い立ち
二 先祖の歴史
三 黒人文学
四 出発
Ⅳ 黒人女性の生を視つめて
一 自分が読みたかった本
二 『一番青い眼』
三 『スーラ』
四 伝統の形成
Ⅴ フォークロアの再生
一 神話の埃を払う
二 『ソロモンの歌』
三 『タール-ベイビー』
四 作品の背景と同時代の作家
Ⅵ 記憶としての歴史
一 歴史の証人としての黒人女性
二 『ビラヴィド』
三 『ジャズ』
Ⅶ モリスンの批評
一 新しい理論を目ざして
二 白人文学におけるアフリカニズム
三 アフロ-アメリカ大学の言語
四 ブラック-イングリッシュとアメリカ社会
あとがき
年譜
参考文献
さくいん