内容紹介
ユダヤ人ツェラーンの原体験は第二次世界大戦中の迫害,なかんずく強制収容所での両親と同胞の死である。非人間的な極限状況を生きのびた詩人はアドルノがいうアウシュヴィッツ後の不可能な時代にあって,詩の可能性を追求した。彼は倒錯的ともいえる強い信念をもって,新たな現実と対話としての詩の相手を求めて一歩を踏み出す。解体した言葉と世界は新たな結合のもとに,可能的な言葉世界へと再構築される。本書では,ともすれば消極的になるツェラーン読解を反転させ,肯定的・積極的な面を解明する姿勢を貫こうとする。
目次(内容と構成)
はじめに
Ⅰ 詩人となるまで――パウル=アンチェル
故郷ブコヴィナ
幼少年時代
大学時代
迫害の嵐
再出発
Ⅱ 詩人として――パウル=ツェラーン
死をめぐって
1 「死のフーガ」/2 死の変容
回帰する時間
1 忘却と想起/2 存在の縁
深淵への下降
1 井戸を掘る/2 「かれらの中には土があった」
「水」との出会い
1 イメージの「水」/2 「水」と言葉
無の栄光
1 「大光輪」/2 「無により底を突き抜かれ」
他者
1 誰でもない誰かとの対話/2 「全き他者」との会話
否定性の実現
1 Niemandの出現/2 「人の、間の、人間の歌」
裏返しの讃歌
1 リルケとツェラーンの文学空間/2 非連続の連続
おわりに
あとがき
年譜
参考文献
さくいん