内容紹介
契沖・賀茂真淵の学問を土台として、本居宣長はなぜ執拗に国学を追求したのか。
儒教・仏教が時代を支配している中で、あたかも祈りと怨念をこめたように、ただひたすら『古事記』に、『万葉集』に、『源氏物語』に没頭し、漢意批判に徹底した。
まさにそれは、混迷する時代的状況の中の血みどろの闘いであった。逆に宣長こそ歴史の形成される過程で磨かれていくひとつの大きな魂であったといえる。
本書は、時代を透視する鋭い眼と柔軟な思考方法とを体得した宣長の生い立ちから、『古事記伝』完成までのながいみちのりをとらえる。
目次(内容と構成)
はしがき
Ⅰ 本居宣長の精神形成
浄土信仰の厚い家に生まれる
浄土信仰の家系/浄土信仰に生きる
今井田養子と人間形成
今井田養子一件
本居復姓の精神的意義
本居復姓の契機/本居武秀の遺志
本居学の学問的系譜
「恩頼図」の背景/学芸愛好の念/堀景山と宣長/京都遊学中の宣長/「私有自楽」の立場/宣長の医業の基礎/宣長の青春と母/垂加神道と宣長
徂徠学と宣長学
『排蘆小船』の成立/『宣長随筆』の中より
伊勢松阪の町人 本居宣長
松阪の町の姿/松阪の商家の人々
Ⅱ 近世国学の成立と宣長学
契沖と宣長
俊成の歌を賞す/文献学的方法の成立/古今伝授の批判/契沖学批判/主情主義文学論の成立/世間の風儀批判/『源氏物語』教誡観の否定/「古への雅び」の尊重/情念文芸の成立
真淵と宣長
松阪新上屋の一夜/『冠辞考』と宣長/『国意考』の成立
国学の成立と西洋知識
国学と蘭学/宣長と西洋知識/中国中華観と馭戎
『直毘霊』の成立と「妙理」
『直毘霊』の成立/「常理」と「妙理」/市川匡との論争/老荘批判/大化改新への批評/惟神道の自然と老荘の自然/当然理の否定/求めつづけた「妙理」/「妙理」こそ古学の眼
『古事記伝』の成立
『古事記伝』と真淵/本格的仕事への出発/谷川士清と宣長/漢意の排除/学問人への転身/へたな歌よみ/家職産業奉公論
Ⅲ 宣長とその時代
天明の「世直し状況」と本居宣長
生活への関心/『秘本玉くしげ』/あはれにふびんなるもの/役人の誅求の否定/農民対策の要諦/産霊のみたま/現実を当為と/限りなく深き「妙理」/経世の実学/朝廷の尊崇と敬神/内山真龍と宣長/『璣舜問答』と風儀改良/蘭学者と世直し/六一歳の自画像/『秘本玉くしげ』と生田万
本居宣長の国体観
血統が基本/天壌無窮の神勅/「修理固成」/天照大御神の本つ国/中外観と国体/日中関係を中心
寛政期の宣長
公儀尊重/津の均田制反対一揆/『古事記伝』に専念/『玉かつま』と『うひ山ぶみ』/山跡魂をかたむる一端/求めるものは一つ/体験的認識論/自伝的回想/師の説になずまず/『古事記伝』の完成
『うひ山ぶみ』──国学とは何ぞや
国学とは何か/実情と道理/そもそも道とは/「やまとだましい」/「遺言書」の意味/鈴屋社の規約/栗田土満の努力/帆足長秋と京/藤井高尚と宣長/田中道麿と横井千秋/破門された鈴木簗満/植松有信と鈴木朗/宣長学と京都/最後の上京の時/門人指導と門人の増加
あとがき
年 譜
参考文献
さくいん