内容紹介
日本の近代文学と思惟に巨大な影を投げかけてきたドストエフスキイの文学は,日本ばかりでなく,ヨーロッパ・ソ連で広く読者を獲得している。それはなぜだろう。一九世紀以後の世界の思潮を貫く大きなテーマに反応したためか,これまで彼の文学は抽象的,観念的に受け取られがちであった。本書では彼の創作活動を,ロシアとヨーロッパの文学史,思想の流れの中に置き直して,作品の成立の事情を明らかにしようとしている。さらに作品の内部世界に分け入って,この作家の思想像を取り出し,現代の私たちにとっての意味を考えようとした。
目次(内容と構成)
現代に生きる作家――ドストエフスキイ
Ⅰ デビューまで
ロマンティックな精神
ヨーロッパ文学の転換点
Ⅱ 『貧しき人々』――<テクストの出会い>と<出会いのテクスト>
論争の小説――モチーフについて
重層化された構造――プロットについて
<物と化する眼差し>への反抗――テーマについて
文学の問題として――スタイルについて
Ⅲ <ユートピア>の探究
<貧しい役人の物語>の射程
ロシア-ユートピア像の系譜のなかで
Ⅳ 『地下室の手記』――<アンチ-ヒーロー>による<反物語>
ドフトエフスキイ版『現代の英雄』
<新しいヒーロー>のパロディ
<光のユートピア>と<地下室>
Ⅴ 宗教生活
宗教体験について
シベリアの『ロシア語訳聖書』
Ⅵ 『罪と罰』――再構築と破壊
創作の第一段階――ラスコーリニコフの造形
創作の第二段階――ソーニャの造形
創作の第三段階――スヴィドリガーイロフの造形
最後の変更――黙示録ヴィジョンの露出
<境界超え>の小説
Ⅶ カタログ式西欧旅行案内
Ⅷ 『悪霊』――レールモントフとニーチェを結ぶもの
イワーノフ謀殺
ロシアのファウストたち
ニーチェの『悪霊』からの抜き書きについて
Ⅸ ジャーナリスト-ドストエフスキイ
校正係の見たドフトエフスキイ
文明論の構図
シベリア以後の長編構想――民族と自分のたどる道
Ⅹ 『カラマーゾフの兄弟』――修道僧と<聖なる愚者>たち
東方教会の文化価値
「子供にどんな罪があるのか」
聖者伝の記者として
あとがきにかえて――戦後日本文学のなかのドフトエフスキイ
年譜
参考文献
さくいん