内容紹介
ユング心理学は「元型心理学」と呼んでもいいくらいに元型を重視するのであるが,この元型とは人間の歴史的体験の結晶であり,そこには悠久な自然の法則性がすべて反映している。ユングはそれを「内なる先祖」と呼んで,個々人はそれとの調和を図ることが大切だと述べている。つまりわれわれ人間には,われわれの発想や行動を先導する適正な水路の役割をする心的な働きが生まれつき備わっており,それは元型的なイメージとしてわれわれに知覚される。この生得的な心的働きをユングは「内なる自然」といったのである。
目次(内容と構成)
はじめに
一 心はもう一つの現実
夢は現実である/無意識は実在する/「よい子」コンプレックス/
ケプラーのインスピレーション/無意識は人を動かす/層をなす心の構造/
普遍的無意識/祖先の体験が生んだもの/元型は文化を生み出す/
『ファウスト』第二部/イメージはただの幻か/観察という方法
二 ユングの人となり――両面性
内向的性格/学校不適応/母の二つの顔/心の分裂性/カンテラの夢/進学の悩み
三 ユングとフロイト、そしてタイプ論
精神科医として出発/患者の心の理解/フロイトとの出会い/夢はだまさない/
自分に暗いフロイト/決別と暗闇体験/タイプの違いという発想/外向性と内向性/
現代社会の外向的性格/意識的態度と無意識的態度と
四 人格の危機と統合――個性化
「内なる他者」との対決/ジークフリートの角笛/東洋との出会い/太母と英雄神話/
影=闇の世界/アニマとアニムス/女性の心理の独自性/精神の元型/
老賢者とマンダラ/塔の家/内なる先祖との結びつき
五 自分の宗教・自分の神話
神はグロテスクだった/教会を破壊する神/内的体験と信仰告白/正統と異端/
不条理な神、ヤーヴェ/元型としてのイエス像/キリスト教の一面性/
グノーシス主義への傾倒/錬金術師が求めたものは/神話としての宗教/
神話を追放したプロテスタンティズム/自分の神話
六 文明批判とナチス論
太陽の息子の気品/UFOの魔法の幻灯/ヴォータン元型と秩序元型/元型の両面性/
病理現象としてのナチス/ユングの処方箋/差別への加担か?/守りに徹した政治的実践
七 ユング思想の特徴
革命性と健全性/強靱で柔軟な意識/感情のコントロール/内なる自然
あとがき
年譜
さくいん