内容紹介
第二次世界大戦中ナチスによりドイツを追われアメリカにあったトーマス・マンは,自分こそドイツ文化を代表する者であり,大西洋の彼方にもはやドイツはないと述べた。彼は,一九世紀末,二〇世紀初頭,第一次世界大戦,ワイマル共和国,第二次世界大戦とナチ時代,そして戦後の世界を通じて,常にドイツの,ヨーロッパの,そして世界の声を代表してきた。彼のこの言葉を裏打ちしている自信はどこから出てきたのだろうか。ドイツとドイツ人を知るうえでトーマス・マンは貴重な素材を提供する。
目次(内容と構成)
はじめのはじめに
はじめに
Ⅰ 精神的生活形式としてのリューベク
一 リューベク市の歴史
ハンザの女王/リューベクの魔力/市の交易/興隆と沈滞
二 トーマス・マン誕生
誕生の時/誕生の地/新しい市民/商人の土地/土地の制約/
母親/幼児トーマス/初めての文芸受容
三 「春の風」
入学/カタリネーウム高等学校/ヴァーグナーとシラー/詩作/「春の風」
Ⅱ 『ブッデンブローク家の人々』
一 世紀末デカダンズ
南ドイツへ/ランベルク通り/「転落」/新しい舞台/最初の短篇群/
デカダンス/デカダンスの時代/デカダンスの作品
二 対立の構造
イタリア旅行/『ブッデンブローク家の人々』
*『ブッデンブローク家の人々――ある一家の衰微』
生への意志/ショーペンハウアー/ニーチェ/対立意識の醸成/様々な対立の設定/
「トーニオ・クレーガー」 *「トーニオ・クレーガー」
三 対立の彼方
魔術の時間/「にもかかわらず」/「ベレッツァ」/北と南/倫理の立場/
新しい芸術/ニーチェの正統の弟子
Ⅲ 魔の山への道
一 結婚
カーティャ・プリングスハイム/結婚/「ヴェルズングの血」/「太公殿下」/
「詐欺師フェーリクス・クルルの告白」/ヴェニス旅行/『ヴェニス死す』
二 戦争
戦争勃発/『非政治的人間の省察』/『魔の山』
Ⅳ ヴァイマル共和国
敗戦/『混乱と幼い悩み』/『ヨーゼフ』着手/『マーリオと魔術師』/ナチスとの対決
Ⅴ ゲーテのまねび――神話の世界へ
亡命/『ヴァイマルのロッテ』/ゲーテのまねび/ゲーテとの自己同一視/
『すげかえられた首』/精神と美/物語ること/
『ヨーゼフとその兄弟』/再びゲーテ/物語の精神
Ⅵ 精神の高貴
「ドイツとドイツ人」/『十戒』/ファウスト着想/『ファウスト物語』/戦後のヨーロッパ/
『選ばれし人』/『あざむかれた女』/『フェーリクス・クルル』/ニーチェ克服
Ⅶ 日本におけるトーマス・マン
一 翻訳の動向
最初の翻訳紹介/官製ベースの翻訳/翻訳文学の中のマン/マン受容の歴史/日本の読者
二 日本文学における受容
人生の師/三島由起夫―生との対決/北杜夫―過去の泉/辻邦生―影から光へ
三 トーマス・マン研究
年譜
索引